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これから変わる設計業務
BIMが変える建築士の仕事

BIM=Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは、コンピューター上に建物の3次元モデルを再現し、設計から維持管理まで各工程のさまざまな情報データベースとともに、よりよい建物づくりに活用できる新しい建築ワークフローです。業界内でもまだ「BIMは大きな組織事務所や建設会社のもの」と捉えられることも多いBIMですが、実は大きな組織内での分業よりむしろ、「何でも自分でやろう」というワークスタイルにこそ適した面があります。
ここでは、前田建設工業株式会社・綱川隆司さんによる「Building Information Modelingについて」の講演内容(2018年4月12日・東京都建築士事務所協会会議室にて実施)を再編集して掲載。BIMがもたらす、これからの設計の仕事について考えます。

作業スピードの向上で
設計の可能性を広げるBIM

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画期的な建築ワークフローとしてグローバルに注目されるBIMツールですが、現在はまだ「BIMをやるのは大変そう」「費用対効果がわからない」という声も多く聞かれます。綱川さんによると、BIM導入の大きなメリットのひとつは「スピード向上」だといいます。綱川さんの場合、過去にはBIMを用いて48時間でデザインとプレゼンまで行うコンペにも参加したこともあるそうです。
「急いで設計をすることを推奨するわけではありませんが、限られた時間の中でさまざまな可能性を検証し、発注者に満足いただけるのがBIMの本来の価値だと思います」と語る綱川さん。BIMが、建築士の仕事にもたらす未来とは何でしょうか。
AIが活用され、異業種からの設計への参入が眼前に迫っているこれからの時代、BIMは情報のプラットホームとして、さらなる価値を持ってくるでしょう。

BIMによる設計で
他社との差別化・受注獲得へ

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綱川さんの設計者としてのキャリアはドラフターから始まり、CADでは2Dから3Dへと移行しました。そして現在は、BIMで設計を行っています。2DCADの時代から「同じ線を繰り返し描きたくない」という理由で、一般図と詳細図とが同じ図形情報から成る外部参照機能を活用したCAD構築を手がけてきました。「BIMの援用は、このCAD構築の延長にあります。作図効率と変更修正の簡便さを突き詰めると、BIMに辿り着きました」(綱川さん)

BIMツールのライブラリーの拡充やツールの開発は、自らとまわりのメンバーで行っています。コンピューターによって『足りない道具は自分たちでつくれる』という面白さがあります」(綱川さん)
綱川さんたちが常に考えてきたことは、BIMを使って「どうやって仕事を獲得するか」「どうすれば仕事が効率化するか」だといいます。BIMMCの担当する物件のうち3分の1は競争物件、3分の1が特命物件ですが、いずれもBIMを用いて行う設計・監理が他社との差別化をも果たし、受注につながった物件です。

デジタルの仮想施工で
仕事を効率化

 BIMによる、仕事の効率化という面はどうでしょうか。
「建物のモデルを切り出して作図するのが、本来のBIMの特徴です。しかし周りの業界を見ると、すでにある図面を見ながらモデリングした“後追い”のBIMが多いのが実情でした。ゼネコンが手掛ける『施工BIM』はその典型といえます」と語る綱川さん。
「設計BIM」と「施工BIM」では目標も手法も異なりますが、綱川さんはこれを「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」という言葉で説明しています(図参照)。
「設計BIM」は、企画設計の段階からBIMを用いて、計画の進捗に合わせて徐々に詳細を精密に詰めていく流れとなります。一方の「施工BIM」は、工種ごとにディテールモデルを作成し、それらを統合しながら全体を形づくる流れで、これはコンピュータの中に、これから建設する建物を仮想施工する意味合いとなります。

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CG、VRなど
設計案プレゼンの幅が広がる

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BIMによる業務の具体的な流れを綱川さんに伺います。
「最初のプレゼンは、単線の平面図にホワイトモデルのパースとなります。敷地の持つポテンシャルを最大化し、発注者のニーズを引き出すことを目指し、さまざまな可能性を見せるのが目標です。
次に設計案を収斂させ、より深く検討していきます。BIMはモデルがあれば、フォトリアルなCGだけでなく、ウォークスルーやVRなど、これまでになかった見せ方で設計案を提示できます」

BIMによる設計スタイルは、発注者との意思疎通が自然と密になっていくのもメリットです。「一般的に『2次元より3次元の方が分かりやすい』といわれますが、私の実感としては、見せ方をきちんと考えないと3Dの方が分かりにくくなります(綱川さん)」。
BIMの時代でも情報伝達の手段として図面が重要であることは変わらず、モデルから図面を導くことは意味のあることだ、と強調します。