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【法政大学向坂逸郎記念国際交流会館】

法政大学向坂逸郎記念国際交流会館
設計者 建築施工者 建築主
(株)石本建築事務所 鹿島建設(株) 学校法人 法政大学
■建築概要
建設地: 東京都 中野区 用  途: 共同住宅
構  造: S造 延面積: 736m2
■審査評
 新青梅街道から北に入った閑静な住宅街に日本を代表するマルクス経済学者の向坂逸郎氏の旧邸があった。緑多い高木に囲まれた敷地が法政大学の手に移り向坂逸郎記念館として国際交流を目的とした施設を建設する事となった。外国からの留学生が短期に寄宿する宿舎として11室からなる小規模な共同住宅である。  敷地の真上を通る都市計画道路の為に建築規制が課せられ構造体は鉄骨造に制限されている。敷地周辺にあった既存の豊かな樹木を極力残す建物配置計画によって前面の外庭と背面の内庭の構成となった。平面プランは極めてシンプルな外廊下タイプで1DKの最小限ユニットから構成されている。内装は木質を中心として全室がオープンになり、バルコニーからの外光やガラスの大開口となっているDENのコーナーからの採光で明るく外部の緑を充分感じられる。柱、梁を200角のH鋼で構成する事により柱、梁を見せず壁式構造の様にシンプルな居室空間を獲得する事に成功している。簡素に抑えられたデザインと共に居心地の良さを感じさせる。
 鉄骨造であるのもかかわらず、両サイドの壁面をコンクリート打放しの力強さを求めて床スラブからカンチレバーで立上げる構造とする等の苦心の跡が見られる。そこ迄打放しコンクリートにこだわる必要があったのかと疑念を感じられるが設計者のこだわりとそれは実現しようとした構造設計者の意欲は充分伝わってきた。
 設備スペースを全て外廊下に集約してスケルトンインフィルに配慮している。中庭に面した外廊下は深い軒底のシャープな直線とダークグレーの壁面で構成し敷地内にあった石造品の保存等で旧向坂邸の面影を残し、和風の雰囲気をかもしだしている。前面はグリットに構成されたガラスに樹木が反映し精緻なディテールによって端整なたたずまいを見せている。周辺の住宅地の中でこの一角が静けさを湛えた爽やかな空間を感じさせ光と緑と建築が調和した作品となっている。

(岡本 賢)