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【扇屋旅館】

扇屋旅館
設計者 建築施工者 建築主
SALHAUS、6D、+i design (株)増田建設(株) 扇屋旅館
(平間 保智)
■建築概要
建設地: 新潟県村上市 用  途: 旅館+オーナー住宅
構  造: 木造
■審査評

 地方都市の駅前旅館における、オーナー住宅の新築を契機とした既存の建物群の再編としてのリノベーション、図面おこしにはじまり、新築住宅を成立させるための考察、耐震改修も含め年代と建て主の異なる既存建物のどこを解体し、何をつけくわえるかのスタディ、隠蔽部分の構成を解体により確認しながらの決定プロセスなど、設計者の能力の高さと注がれた多大なエネルギーが伝わってくる計画である。

 複数の建物に囲まれた中庭を、オーナー住宅のテラスや旅館の通路から見渡すと、各建物がそれぞれの機能を果たすべく独自に建っているようでいて、ある雰囲気にまもられた安堵感を覚える。これらはリノベーションにて導入された中庭、庇と外構造作、各部位の状況と求められる機能に即した丁寧な改修に拠ると想像される。内外の意匠には、言葉は悪いが場当たり的な感じを覚える部分もあるのだが、中庭を巡る空間ではそうした統一感の足りなさによって逆に自然な雰囲気が醸し出されている。それはまるで多くの人の営みの末に自然にできあがった、無作為の作為、居心地のよいまち空間のようにも感じられた。宿泊や宴会の客人、ここを訪れる多くの人々に馴染みの感じを覚えさせ、何気なくできごとを眺めたり、時間をすごすことを許容する「開かれた」空間となっている。長きに渡る旅館の営みの中で建物が内包してきた雰囲気が途切れさせられることなく、むしろリノベーションによって中庭空間に解き放たれることで、新たな空間価値が創出されていると感じた。

 プロジェクトは、地域の人々によく利用されてきたという宴会仕出し業務を継続したまま進められたという。利用の時空間という流れを途絶えさせることなく新たな視点を切り開いた再構成という観点からも、設計者の力量は大変高く評価され、最優秀作品とされた。

(國分 昭子)