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設計トラブル事例(その1)

施主とのコミュニケーションが大切

指導委員会

はじめに

 平成21年1月5日より、法定団体となった建築士事務所協会の業務として、建築士法第27条の5に「苦情の解決」が明文化され、 法律行為として行うことになりました。
 この業務の実施にあたっては本会に「建築士事務所業務に対する苦情の解決に係る業務実施規程」が設けられそれに従って行われますが、 この規程の中には第14条3項に「苦情内容について参考となる事項を会員に周知し、苦情の発生防止に資するものとする」という一文があります。

 従ってこの「設計トラブル事例」は、この条文に従って掲載されるものであり、会員の皆様にとって、実際の事例について知って頂くことにより、 日頃の業務の参考となる内容であれば幸いです。 但し、個人情報等の関係がありますので、あまり具体的には表現出来ずに曖昧なところもありますがご容赦下さい。

1.経 緯

 他の単位会から紹介された案件です。建築主である相談者及び建設場所が東京都以外で、苦情対象事務所が東京都内に所在しているケースです。
 この場合実施規程では、何れの単位会で対応してもよいこととなっています。 相談者の方は、地元の建築士事務所協会にも相談に行っており、相談を受けた単位会の資料によると、改正建築士法にも精通しておりました。

 都内に所在する建築士事務所への苦情いうことで東京会で対応し、それについては相談者の了解もとれていました。

2.相談者との面談

 21年度、第1号の相談でした。面談は、建築相談室専門委員会の委員と指導委員会の委員の1名ずつの2名で対応することになっていました。  相談者と面談して話を伺うと、設計段階から設計者に対する信頼関係が全くない様に感じました。 設計が殆ど終了した段階で、建築主である依頼者に確認をしていなかったために設計上の前提条件となる重大なミスをおかしていることに気づき、 設計変更をせざるを得なくなり、工程の変更が生じてしまっていたのです。このあたりから不信感が生まれてしまった様でした。

 苦情の内容は、設計及び工事監理は終了しておりましたが、多くの項目からなる追加工事及びやり直し工事を要求しても、 建築士事務所が対応してくれないということでした。
詳細の内容については割愛させて頂きます。

3.苦情相談に関する迅速な処理についての要請文の発送

 相談者の了解を得た上で、苦情対象事務所に対して建築士法第27条の5第1項による、苦情の内容を通知して迅速な処理を求める旨の文章を発送することと致しました。
 苦情対象事務所は本会会員ではありませんでしたので、迅速な処理についての要請文が届いても建築士法上では応答義務はありません。

しかし、苦情対象事務所は経緯について説明をしたいと、面会を求めてきました。
面会当日、苦情対象事務所は弁護士を伴ってこられました。当会の苦情解決業務に相談されることは既に想定をされておりました。
 苦情対象建築士事務所は、建築主に確認を怠ったという非を認めており既に設計監理料相当額を建築主に和解金として返金されており、 当該建築士事務所も被害者であり、場合によっては訴訟も覚悟しているということでした。

 従って、これで苦情解決業務は終了ということになりました。
苦情解決業務の終了は業務実施規程では19項目あり、本会に苦情が持ち込まれたからといっても、必ずしも解決に至るとはかぎりません。
 解決されるケースとしては、あっ旋業務に行って双方の同意が得られた場合ではないでしょうか。 その場合は双方の歩み寄りが必要で、それなりの時間を要することになると思います。

考察

 設計をスタートする際、建築主とのコミュニケーション不足によって生じた設計ミスにより、 信頼関係が失われたことも原因の一端があるようにも感じました。
 しっかりとコミュニケーションをとりながら、一つ一つをペーパーに残し、確認をしながら業務を行うことが如何に大切であるかを実感させられたケースでした。

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